株式譲渡と税金
M&Aを行うにあたって様々な形態がありますが、今回は中小・中堅企業において最も活用される方法である株式譲渡とその税務の取り扱いについてご紹介します。
株式譲渡はその名前のとおり、株式の売買により会社の引継ぎを行う手法です。なお、株式は非上場であるケースを前提として考えます。
株式譲渡が最も活用される理由
中小企業のM&Aにおいて株式譲渡が多い理由を見ていきましょう。
一つ目は、手続きの簡便性にあります。基本的には株主総会の承認が不要となるため、契約書の作成手続きで取引を進めていけることが簡便である理由となります(ただし大法人や譲渡制限株式が含まれる場合はやや複雑になります)。
二つ目は、買い手にとっては株式の全てを取得することで包括的に事業そのものを引き継げ、事業承継後に思うような経営を行えるところにあります。ただ、買い手としては事業を包括的に承継しますから、事業譲渡と異なり、不必要な部門の引継ぎや簿外負債の引継ぎなど、交渉時に行うデューデリジェンスにてより厳密に判断することが求められます。
三つ目は、売り手にとって一般的に手取額が大きくなる点です。これは売却時の税金についての話です。例えば、事業譲渡になると、その譲渡益相当額について売り手会社に対して約35%の法人税等が課税されます。また、個々の譲渡資産について消費税の課税対象になり得ます。しかし、株式譲渡であれば通常、売り手株主(個人前提)に対して約20%の所得税等のみの課税となります。もちろん、ケースバイケースになりますが、多くの場合は、上述したような税金を控除した手取額は株式譲渡の方が多くなると考えられます。
株式譲渡と税金
株式譲渡を行うことで発生する税金の取り扱いについて見ていきましょう。
株主が個人か法人かで税金のかかり方が異なります。具体的には、社長自身が株主であったり、あるいは社長と役員のみに株を待たせていたりと「個人」で株式を所有している場合と、M&Aの該当会社のいわゆる親会社である等、「法人」で株式を所有している場合とがあります。どちらも個別に見ていきましょう。
個人が株主の場合
多くはこちらのケースに該当すると思います。この場合は個人ですから所得税の対象となり、所得の区分は譲渡所得ということになります。
譲渡所得は次のような計算式で計算されます。
譲渡所得=収入金額ー取得費・譲渡費用
収入金額は、売却価額そのものです。取得費とは、当該売却株式を取得した時の価額となります。換言すると株主となった当時の出資金額ですね。そして譲渡費用とは当該譲渡時にかかった経費(M&Aの仲介手数料等)のことをいいます。
このように計算された金額が譲渡所得となり次の税率を乗じた金額が所得税となります。
所得税=譲渡所得×20.315%(所得税15・315%、住民税5%)
そしてこの株式の譲渡による所得税は申告分離課税といい、給与所得や事業所得等とは区分されますので、上記で算出した金額が税金となります。
法人が株主の場合
こちらは、会社が株主のケースなので、法人税の対象となります。考えかたは会社所有の株式を売却するということです。個人の経費と法人の損金で取り扱いの異なる部分はありますが、所得計算の方法まではほぼ同じです。
譲渡益=売却代金ー取得費(有価証券の簿価)-譲渡費用(損金算入できるもの)
このように所得は計算されます。そして、税額計算は次のとおりです。
法人税等=譲渡益×約35%
実際は法人ですから損益計算書を基に他の損益と合算して法人税の所得計算を行っていきます。
今回は中小法人のM&Aの手法で最も多い株式譲渡とその税金についてご紹介いたしました。なお、M&Aの手法はケースバイケースで売り手、買い手双方にメリットデメリットがあること、また、税金の発生もM&Aの状況で大きく変わりますので専門家に相談することを推奨いたします。